金曜、JR飯田駅に降り立ちキラヤスーパーで買い出し。夕食は満津田で牛焼肉丼を頂く。飯田に来るといつもここ。今場所は三段目スモトリ・満津田の調子も良さそうだ。
シルクホテルアネックスにチェックインすると、ロビーで大会運営のKさんMさんYさんに遭遇。このご時勢で多くの方が出場を辞退され、あと戦友のGさんも辞退されたとのこと。明日は誰を追ってレースをすれば良いのか。
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土曜、朝食とFDGみよしの賞品にあったUTAサプリの試供品を摂取し、電車で元善光寺へ。ざっと60名が乗り込んでいて、つまり参加者の大半である。まずは寺の階段を登り本堂に手を合わせる。アイサツは大事。古事記にもそう書かれている。
『ウルトラオリエンテーリング・元善光寺-善光寺』コースプロフィール176km、累積標高3,020m・・・「そんなの絶対無理!」と思って当初はエントリーを見合わせていた。だがこれに出ておけば長野県のマラソンイベントに思い残す事は無いだろうと、だいぶ遅れてエントリー。以来、出来る限りの準備はしたつもり(ツーリングを楽しんでただけ)。カフェイン断ちによる頭痛も解消して頭は冴えている。受付で地図セットと専用GPS端末を受け取る。このGPS情報はWeb公開され、誰でも観戦できる仕組みだ。
午前6時、辞退された方々に申し訳ない気持ちを残しつつ、でも待ち焦がれたスタートの刻を迎える。地図上で指定されたコントロールと呼ばれる特徴物を、制限36時間で順番に写真撮影していくルール。とりあえず自分の順位が分かる位置でレースを進めたい。ところが二万五千分の一スケールにまだ慣れていない先頭2名が次々と、最初のコントロールを500m〜1kmオーバーランして引き返しを余儀なくする。その次の選手も分岐を見逃して、あらぬ方向へ走り去る。
…俺がトップじゃん。まぁちょっとだけ良い気でいさせてくれや。河岸段丘登りに入り、私も分岐を100mほど間違え、やはり追い付かれるのだが。コントロール「延命地蔵尊」は写真見本とだいぶ草木の生え方が異なり、しばらく走ったあと不安なって引き返して再確認、ヨシ! 176km走っといてDSQ(失格)は避けたい。
20km地点の飯島エイドはルールブック上は通過不要だが、貰えるものは貰っておこう。ところが現場では通過必須の判断で、その混乱で私がトップ到着になってしまった。・・・ここまで上位争いを演じてしまって、「La victoire est à moi(調子に乗んな!)」って方が無理じゃんね。かかり気味になって、駒ケ岳SAからはとうとう単独トップに躍り出る。ちょっとしたトレイルを経て善光寺…ならぬ光前寺、こまくさ橋を渡り北へ北へ。
追い風は助かるが、いよいよ晴れて暑くなってきた。これは相当数のリタイアが見込まれる。伊那地方の国道や県道は狭くランニングには不適なので、配布地図には交通量の少ない推奨ルートを示すピンクのラインが引かれている。またその道を通らせるためのコントロール配置になっている。これが案外複雑で、ロゲイニング慣れしてないと心が折れるだろう。あまり頭が疲れないよう、ずっと真っ直ぐで良い道はあえて地図を見ないで心を休める。おっと、なるべく全ての通過市町村でマンホールを写真に撮るという遊び心は忘れない。
田切地形によるアップダウン、羽広観音へのアップダウン、暑さと給水不足にダメージを負いつつ63km地点の箕輪エイドにトップ到着。ヘッドライトの点灯チェックを受けて、ここからの地図セットを受け取る。エイド食はハッピーターンやカントリーマアムといった喉を通りそうにないものばかりだが、なるべく食べる。せめてバナナでもあれば…。配布スポドリもカロリーオフタイプだし。小さい羊羹2個を補給用に持ち出しリスタートする頃、Y選手が到着。強豪は私みたいにエイドでだらだらしないから、すぐに追い付かれるだろう。
案の定じわじわと追い付かれ、一気に追い抜かれる。ここまで本当に良い夢を見させて貰った。ツインターボばりの「大逃げからの逆噴射」が始まる。徳本(トクホン)水がコントロールになっていて水分不足は解消するが、今度は圧倒的カロリー不足に悩まされる。エナジージェルをちょびちょび摂っているだけでは足りるはずもなかった。事前にちゃんと計算をしていなかった私が悪い。
ルートは初期中山道・牛首峠へ大きく西に迂回する。とうとう歩き混じりになり、喉を通らないカロリーメイトを少しずつかじりながら峠越え。去年近くの蛇石キャンプ場で熊を見たから熊鈴必須な。ここからはほぼ知っている道で、ハッピードリンクショップがどこにあるのかも把握している。桜沢に下りて早速、弾けるレモンの香り、ポッカレモネード!…ってこれカロリーオフタイプじゃん。人工甘味料は滅びろ。コンビニでパルムアイスとタピオカミルクティーを摂り、やっと走れるようになるが3位転落。
この大会を知っていると言うジョガーに声を掛けられ、嬉しいけど心に余裕が無い。もうだいぶ暗くなってきたなか、村井から出川までピンクラインがえらい複雑。ツルヤスーパーに行くとき良く使う抜け道だが、踏切の使用は避けたい。とうとう反逆して国道・県道を進むことにする。カフェインドリンク解禁としてコーラを呷りつつ午後8時、114km地点の松本エイド(松本神社)に到着。いつの間にか2位に返り咲いているが、これも風前の灯火だろう。
ヘッドライトの他にスマホのバッテリーチェックも受けて、新しい地図を貰う。デポジット荷物の食糧少なすぎたかなー。半袖Tの下に長袖Tを着こみ、仮眠は取らずに出撃。このへんは自宅から500mの位置だし帰ろかな、帰りたい、おふとん夢の中…。四日目の月が沈み真っ暗な林道の防獣柵を越え、刈谷原峠は完全に歩き。下り坂もとうとう走れなくなり、眠気で目の焦点が合わずふらふら歩き。やはり私はここまでの男だった。挫折感に打ちひしがれながら順位も落ちていくが、自販機前でコーヒーナップ(小仮眠)をとり、歩けるようにはしておく。そうすればいずれゴールに着く。さすがの星空もあまり観察する余裕は無い。
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日曜、地獄の立峠に入った。山の中は松の花粉だろうか、ヘッドライトの光にずっと大量の粉が照らされている。喉がいがいがするわ。「山に体を立てちゃいけない、体を沿わせるんだ」という格言?を思い出しつつ、ふくらはぎが死ぬのではと懸念していたトレイルの急登は案外大丈夫。だが大腿四頭筋?の踏ん張りが効かず、坂を下るほうが困難になった。もう一つ中ノ峠を越え、命からがら137km地点、最終の西条エイドへ。メンタルもすっかりやられているのか、私にしてはスタッフとべらべらしゃべる。
自己最長距離は24時間ロゲイニングの時の132kmなので、もう完全に未知の領域に入った。2km区間だけ走れたが、歩きに戻る。もう一度数分の仮眠を取り、麻績へはまた推奨ルートと違う道を通る。草木も眠るウシミツ・アワー、国道もほとんどクルマ来ないしね。ガッタリを経て最後の山場、猿ヶ馬場峠へ。ロスト気味の他選手と少し協調しつつ、聖湖に登り着く頃には朝になった。ヘッドライトをしまう。
下り坂がますます無理になって、ここでリタイアすることもできず、気の遠くなるような長い時間を掛けて桑原集落へ。本降りの雨になりウインドブレーカーを着込むが、低体温症の心配も出てきた。稲荷山のコンビニに寄りコッペパンを購入すると、なんだ、ちゃんと喉を通るじゃん。これで走れ・・・ない。右足裏に激痛が走る。雨による靴濡れでアイシングされていなかったら、気絶もんだ。
「とうとう地図に長野駅が見えてきましたよ!」と嬉しそうな他選手。彼なりにここまで至ったドラマを感じ、私も少し前向きな気持ちになる。女性トップらしき(後日注:混合チームの方)にも抜かれつつ、丹波島橋で最後のインゼリーを投入。駅前からの参道はマスクを着用。トイレを探しているうちにまた順位を落とすも、善光寺信号直前で1人抜き返す。ここからは走行禁止でほどなく駒返橋、176kmフィニッシュ地点に午前11時23分37秒、つまりタイム29時間23分37秒、全体12番目での到着となった。記念撮影には笑顔を返すが、無心に近い。
徳寿院という宿坊に移動。全58コントロールの写真確認を経て、元善光寺&善光寺の御朱印を完走証として受け取る。DSQにならなくて良かった。シャワーを浴び、眠くならないうちにリーブ。改めて善光寺本堂にお参りすると、ようやく涙が滲んでくる。ここ数ヶ月は甲斐善光寺・関善光寺・元善光寺・善光寺東海別院・岐阜善光寺・善光寺大勧進・善光寺大本願そして長野善光寺(ようするに元善光寺サイトのリンク先すべて)を巡り「完走できますように」と手を合わせてきた。完走というか完歩になってしまったが、ついに成就できたんだ。「ありがとうございました!」。
大会カメラマンという激務をこなすHさんにも別れのアイサツをし、もうほぼ歩けないのでバスで長野駅へ。駅のエレベーターを使うなんざ、9年前の群馬遭難時以来だ。電車で松本に戻り、モスバーガーで1,400円の豪食。バスで帰宅…ここのバス路線を使うのも9年ぶり。
敗因をまとめると、大逃げからの逆噴射、圧倒的カロリー不足、大腿四頭筋の力不足、右足裏の謎故障。勝因をまとめると、前半の地図読み(自分が一番短距離ではないか?)、暑さ耐性くらいか。まぁとにかく経験不足。かといってこれから経験を積もうとか、今はそんな気分じゃない。足が治ったところを、このレースのゴールとしたい。
→Facebookアルバム: ウルトラオリエンテーリング・元善光寺-善光寺2021
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