ホテルの朝食は上々。チェックアウトして小走りすると、すぐに片島という寂れた港町に着く。どうせ宿毛フェリーもガラガラだと高を括ってたら、キップ売場が行列になっていて焦った。朝日眩しい宿毛湾をいま出航する。海崖が続くまたとない風景を目に焼き付け、旅はもっと遠くへ…。
今年最後の運試しにと船内のUFOキャッチャーで遊んでみるが3回とも空振り。やがて大分県の佐伯(さいき)に入港し、九州上陸を果たす。ほとんど船上デッキにいたから、風を受け過ぎて身体の具合が悪い。温まりたいので、今日の昼食も駅前のラーメンにする。白龍という店、旨い。ここから南に向かう日豊本線は普通列車が極端に少ないし、特急にちりんでワープしちゃおう。延岡以南は初乗車の宮崎県。高知県と同様、わざわざ来ようと思わなければ一生通過すらしない県だ。車窓はフェニックス並木。宮崎駅には特徴的なスイーツが色々売ってるけど、まだ食欲が出てこない。
三日目の18きっぷはここからで、都城まで進んで吉都線(きっとせん)に乗り換える。旅のおやつはやっぱりポッキー。それにしてもこのキハ47形2両編成、ノリノリである。ほとんど違法行為ってくらい激しく上下に揺れる。ダイエットマシーンか? おかげでぐったりしていた身体を強制再起動できた。左手には霧島連山が雲に見え隠れし、右手は謎電波塔群。
大晦日特有の旅情と言うべきか、自分以外の乗客が2人にまで減る。ちょこんと鹿児島県に入り、吉松はかつての大ターミナル。現在は駅前に温泉銭湯があるくらい。今日は閉店が早いらしく混んでいるが、二つある湯船のうち熱い方は空いている。乗り換え時間にサッと入るには有り難い。お気楽極楽。
肥薩線で北へ県境越え。新型のキハ220形単行に、自分以外の乗客は2人。日本三大車窓はもう真っ暗で、田舎の夜景でしかない。秘境のスイッチバック駅やループを経て、熊本県の人吉で長い待ち合わせとなる。少し歩いて新温泉という古びた銭湯に入ると、こちらはぬるい湯なのでゆっくり。脱衣所ではラジオから紅白歌合戦のアニメコーナーが聞こえてくる。もうちょっと聴いていれば次の歌手は…と後ろ髪を引かれつつ駅へ戻る。夕食はコンビニもの。
八代への最終キハ40単行は、自分以外の乗客がとうとう1人。鹿児島本線に乗り継ぎ、熊本駅前の東横インが年越しの宿。
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元日の未明。こんな日でもクソ我儘な旅人のために朝食まで用意してくれて、しかもおせち風だったりして、済まない。「三が日くらいみんな休んでライフラインも止めてしまえ」という持論とのダブルスタンダードである。おまけに6時半からと意外に早いので、予定外に熊本城をねじ込むことにした。やはりここまで来たからには、一目見ておかないと土産話にもならない。路面電車と駆け足で天守閣のもとに登ると、初日の出を待つ市民でごった返している。自分は急ぎ電停に戻るが…電車が来ない。時刻表を良く見たら元日は休日よりも減便ダイヤだった。運行してくれるだけでも有り難いが、これでは間に合わない。やはり18きっぷ旅は「観光している場合じゃないでしょう!」ってことか。イチかバチか別系統の上熊本行きに乗ったら、ウルトラCで予定のJR線に間に合った。ここで日の出を迎え、手を合わせる。
保線良好の鹿児島本線。フルスロットル飛ばしてみましょ、って思ったらスピード制限!? 濃霧では徐行も仕方ない。福岡県の大牟田で快速に乗り換えてもまだ晴れない。こんな時は悩まないでジェットがあるフライト♪ …いや、そのジェットに乗り遅れそうなんだ。路線は一部佐賀県を経て、博多でバタバタと地下鉄空港線に乗り換え。どうにか福岡空港の展望デッキでぴょんぴょんするくらいの余裕は確保できた。
元々は1月1日の席に余裕がありそうだからと先に航空券を確保しておき、後からトッテツケで組んだ目的のない旅行だった。でも様々な印象と、今後サイクリングするヒントもあったし出て良かったと思う。ききき機内モード!? FDA204便が滑走路を急加速して離陸する。飛行機とかいう鉄の塊に乗るなんて17年ぶり2回目なんだ、ワクワク。北側の窓席は景色が楽しめる。翼がやや邪魔な位置だけど。「空から日本を見てみようplus」という番組のBGMが脳内を流れっぱなし。
国東半島から九州を離れ瀬戸内海へ。かつてサイクリングやジョギングで渡った来島海峡大橋を始め、瀬戸大橋、高松、小豆島、明石海峡大橋…思い出深い地面が眼下にスクロールしていく。淀のターフ、琵琶湖、雪化粧の伊吹山や白山、木曽川ライン、王滝村、そしてまだ噴煙を上げる御嶽山が間近。手を合わせる。乗鞍岳の横で高度を下げて行き、松本盆地を旋回。自宅付近や松本城の、こんなすぐ上を飛んでいるのか。定刻通り、お馴染み感満点の信州まつもと空港にランディングした。また乗りたい。
23500円の航空券で気持ちスッカラカンなので、シャトルバスには乗らず。うっすら積雪の上を広丘駅まで45分歩く。ここから松本までJRに乗っても、今日分の18きっぷはわずかに元が取れない。まあいいや、早く帰りたい。松本城に寄って「この城が一番美しいな」と手前味噌に思いつつ帰宅。鉄道、バス、船、飛行機…様々な公共交通機関の揺れが身体に残る。
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