18きっぷの4回目は中央西線の始発から乗り継ぎ、愛知県春日井市の高蔵寺駅で下車。ここから南に向かってジョギング開始だ。一旦名古屋市に入り、森林公園ゴルフ場を上り下りしてるうちに尾張旭市に入る。曇ってはいるけど蒸し暑い、松本とは明らかに違った空気だ。瀬戸市からまた丘に掛かる。今日は山登りに来た訳じゃないんだぞ。トレイル用デイパックを背負ってるから格好はそれっぽいが。
長久手町に入り、やってきました愛・地球博記念公園「モリコロパーク」。あん時ゃ一回しか行ってないが、それでも名残の数々に感動しっぱなしである。ほとんど残さなかった某科学万博記念公園とはえらい差だ。サツキとメイの家は当日券が余ってるようだが、また遠くから指をくわえて眺めるだけでいいや。万博の時はそれさえ押し合いへし合いでままならなかった。崖の上のポニョ展も相まって園内は親子連れでなかなかの賑わいだ。
公園をざっと一周、に一時間以上掛けてしまった。陽が出てますます暑いリニモ沿いを西へ走る。品川を発ったリニアモーターカーは飯田を経てこれに接続するんだよね。右手には長久手古戦場、秀吉と家康の激戦があった所だ。さてどっちが勝ったでしょう?
スポーツドリンクや水道水をがぶ飲みしつつ、いよいよ大名古屋市街地に突入。消火栓蓋の丸八マークで解る。
高蔵寺のスタートから33km、4時間13分をかけ天白区の植田トロン温泉でゴール。ショボい終わりだが、身を清めておく必要があった。疲れたので地下鉄に身を委ね3つ目、いりなか駅で下車。坂を登って行くと目前には重食喫茶、霊峰マウンテン! 今日は登山に来たのだ。15時半でもほぼ満席で賑わっている。観光地化が著しいことに昔からの登山家が嘆いてるところも含めて登山っぽい。
席につくと隣りには壮大な遭難、つまり食べ残しの跡。ネットとか見て軽い気持ちで登ろうとしたのだろう。あ〜あ、だから山を甘く見るなと。私は甘口バナナスパに掛かろうと心に決めていたが、主峰の甘口抹茶小倉スパなら二年前に余裕しゃくしゃく単独登頂に成功している。似たようなのじゃ進歩ないなあと思って、壁の貼り紙に適当っぽく書かれた「あつげしょう(中)1350円」に急遽オーダーを変更。他メニューの倍する値段がおかしい。あとストロングコーヒー。
まず付け合わせの菓子と未体験な濃さの飲み物が来る。うんストロング、これはこれでいける。そしてうやうやしげに運ばれて来た「あつげしょう(中)」。ざわ…、ざわ…。周りの視線が集まるのも無理はない。刃渡り30cmはあるフランスパン丸々一本の上にだっぷりどっぷりと生クリーム。両脇には甘いチェリーがあしらわれ、山に例えるなら何だろう。もはや日本のものではない。
予想以上のテーブルマウンテンに身震いするが、急いで登れば何とかなると思った。いざピッケル、もといナイフとフォークを手に取り、登攀開始。!?…岩が固くてナイフの歯が立たない。恐るべしフレンチマウンテン。これは長期戦の構えだ。しかし長引けば長引く程に戦況は不利になる。おまけにクリームとパンの間にはおはぎ十個分はありそうな大量の甘いつぶあんが化粧の層をなす。嫌な汗が出る。すみません山を甘くみておりました。走り疲れている時って食が細くなるもんだし風邪気味であることも災いした。三合目でもう酸欠症状を起こし始めたのである。
いやいやいや、出された食事を残すなんて倫理的にあってよいものか。世界中には、と言うより自分自身が今の調子じゃ来年には飢餓に苦しむだろう。甘い物が恋しくておはじきを口にする話とかなかったか?
一歩一歩、時にひと啜りの特濃コーヒーで休憩しながらフォークを手繰り寄せていく。「諦めたら楽になるぞ〜」という悪魔の甘い囁きが脳を溶かし始める。幻聴だっ。たまらずズボンを緩めてみても効果はない。そういう問題じゃなくて、これはもう砂糖の暴力だ。あつげしょうというネーミングからも悪意しか感じない。充分な下調べをせず自らの体調も省みなかった己が全て悪いのは分かっているのに。既に仲間のレスキューに失敗している隣りの山は、ヒソヒソとこちらを遠望している。付け合わせの菓子ならサクサク食えるのに、クリームでホワイトアウト、あんこでブラックアウトを繰り返し、パンの甘みさえ苦痛に感じられれば崖っぷち、もう全く唾液が出ない。これ以上は土石流災害が発生してしまう…。パンパカパーン!私はついに悪魔に魂を売ったのだ。残り二合が甘りに絶壁だった。山を甘く見ていた。失意の遭難者は申し訳ない気持ち一杯で過去の精算を済ませ、とぼとぼと下山するのだった。もう二度と、ここでの単独登山は行わないだろう。
まだ地盤が緩んでいるので、地震は危険だ。地下鉄には乗れず、鶴舞駅まで歩く。うぷ。あとは18きっぷで帰松。今の私は何をやってもダメだなぁ。一体何しに出掛けてたんだ。ひいぃっ、火で炙るとドロドロに融ける白い粉! 暫くは砂糖恐怖症になること請け合いだ。
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