頭痛を感じない起床は何日ぶりか。どうやらピーキングは間に合った。ホテルの朝食サービスでおにぎりを4つ食い、東海道本線で岐阜県に入り大垣へ。さらに養老鉄道でコンビニおにぎり2個を食べながら揖斐到着。シャトルバスで会場に移動すると、そこはもう人でごった返している。フル四千人余、ハーフ三千四百人余という大規模な「いびがわマラソン」にやって来たのだ。ゲストサポーターも豪華で、西田ひかるの美人さたるや長澤まさみに見えたほどだ。
わりと前の方に並んで、いざ号砲。ネットタイムの計測は無いがグロスとの差は十秒程度。やがて阪神タイガースのはっぴを着た人(“乗鞍”にいる方とは別人)が豪快に抜いて行くが、自分はまず慎重に。揖斐川の峡谷を往復する標高差127mのこのコースは、アップダウンの数が多くて積算すると300mを越えるのだとか。ターゲットタイムを3時間5分〜10分に設定してはいるけどタフな闘いになりそうである。
だが天気予報では昼から強風になるという。そのため、往路は登り基調の向い風となるものの急いで折り返し地点に向かう作戦を取る。風が強くなる前にだ。心配された雨は止み、時折ぱらぱらと降る程度。
実力者をひたすら風よけに使いながら往路を登り切り、中間地点がちょうど折り返し。その時点で1時間31分。本来なら実力に見合わぬオーバーペースだけど、いよいよ吹き荒れ始めた強風が背中を押し、下り基調と相まって意外とスピードは落ちない。風よけさんは用済みなので千切っておき(ひどい)、タイガースはっぴもようやく抜き返す。僕はファンランナーだからエイドであんパンだって頂いちゃう。
それにしても、このままだとひょっとするとひょっとするかも。30km地点を過ぎてもまだ足が生きているのだ。自分はサブスリーを狙いうる、シリアスランナーなのだという自覚が芽生える!
「シリアスランナー? ただ走ることにそんなにマジんなっちゃってどーすんの。シリアスだけにお尻ペーンペーン!」
と言いたいぐらい内心バカにしてこれまで生きてきたが、ついに自分が両足を突っ込むことになるのか。世の中でほんの一握りのフルマラソンランナーのうち、さらにほんの一握りのサブスリーランナーになれるものなら、もっと強気な人生を歩んでも、いや突っ走ってもいいだろう。職場ではようやく昇格が決まったばかりだしまだ辞めるつもりはないんだけど…。
ふと揖斐峡の景色を見ると「またここを走りたいな〜」という気分になる。まだ紅葉には早かったけど山紫水明、素晴らしいコースだった。下り坂の衝撃に足が悲鳴を上げ、平野部に出てからは最後の気力を振り絞るものの、両腕が痺れまくって身の危険を知らせている。ラストワンマイルでついに力尽きた。
それでも当初の目標を大幅に上回る3時間01分15秒でゴール! 狡猾な作戦勝ちに何度もガッツポーズをする。悪く言えば「追い風参考」だが。順位は85位で、これだけ大規模な大会で二桁というのも予想外。次のフル“長野”でのサブスリー挑戦権は得たと言えるだろう。
ブースで肉汁たっぷりの牛串を食ってタンパク補充。大垣の銭湯で汗を流し体を温めて、少し足が楽になった。名古屋駅できしめんを食い、松本着夜8時ちょうどのしなの23号に乗る。車窓に点々と流れる灯りを見ていると、まるで銀河を旅しているかのような気分になる。実際、多くのSF作家が夜汽車から見る景色に触発されたに違いない。願わくば室内照明を落とせる個室寝台から楽しみたいものである。
土地勘の無い場所でのフルマラソン挑戦は初めてだったが、大きな充実感とちょっぴり悔しさを残して無事成功した。明日は有給を貰ってあるし、ゆっくり休みたい。
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